#1:上体強化:基礎 「ベンチ・プレス導入」1

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このたび、『Web講座』というタイトルで、ストレングス・トレーニングに関する様々な情報を発信することになりました。
田内・大道を中心に、これまで約30年にわたり、工房インストラクターが現場で培ってきた、「スポーツ選手のためのストレングス・トレーニング」のノウハウを、理論・実技の両面から実践に則した内容で掲載していきます。

第1回目は、「スポーツ選手の上体強化「ベンチ・プレス導入」についての前編を、大道が担当いたします。 (尚、各インストラクターの略歴については、「スタッフ紹介」ページよりご参照ください。)

スポーツ選手の上体強化:基礎 「ベンチ・プレスの導入」

競技スポーツが高度に発達している現代では、どのようなスポーツ種目においても、上体強化は必要不可欠で重要な課題と言えます。このことは、外国人選手に比べて上体が華奢な、多くの日本人選手に、特に当てはまることではないでしょうか。

そういったなかで、今ではベンチ・プレスを積極的に行っている選手、チームが、数多く見られるようになってきました。 ベンチ・プレス(以下、BP)は、スクワットやデッド・リフト(クリーン)とともに、筋力強化種目の中でビッグ・スリーと言われ(表1)、重要種目に位置付けられており、以下に述べるような効果が知られています。

ビッグ・スリー

◆上体筋群(大胸筋、三角筋など)の強化、発達
⇒様々なスポーツの土台となる身体づくり
⇒肩関節の強化
◆‘押す’という基本動作の強化
◆高重量負荷による神経系適応
(運動単位の動員:増加と同期化、神経筋協応能の改善など)
◆飛躍的な重量アップがメンタル面にプラスの影響を及ぼしプレーへの自信につながる



さらに、BPには、トレーニング刺激に対する反応性が高いという特徴があります。行ったトレーニング(回数×セット数、週間頻度など)に対する影響(筋肉痛も含めて)・効果が、他の上体エクササイズ(種目)に比べて出やすいと言うことです。

これらの特徴は、トレーニング方法を学習していく上で有効となるため、フォーム習得が比較的容易であることも相まって、基礎段階でBPが重要種目として位置付けられ、積極的に取り組まれる理由ともなっています。 以上述べてきたように、大きなトレーニング効果が得られるBPですが、その実施にあたっては、いくつかの注意すべきポイント、つまり、スポーツ選手にふさわしい取り組み方、進め方があります。 今回は、スポーツ選手が取り組むBPの基礎段階において、どのように進めていけば大きな効果が得られるのかを詳しく解説していきます。また、それに続く発展段階へスムースに移行できるよう、基礎段階で何をしておくべきなのかについても触れておきます。

初期段階の重要ポイント

スポーツ選手が取り組む上体強化で、BPを導入するにあたって注意すべきポイントは以下のとおりです。

①無理のない安全なフォームを身に付ける
(特に肩関節と腰背部の障害予防)
②バランスの取れた強化を図る(表面と背面、内側と外側など)
③肩関節の柔軟性を養成しながら進める
④初級段階にふさわしい重量設定を行う

①無理のない安全なフォームを身に付ける
BPの基本フォーム、および基礎リフティング・テクニックを身に付けるのは、当然のことながら、さらにその上で重視しなければならないのが、肩関節や腰背部への負担をできるだけ減らして取り組むことです(基本フォームについては、別途解説)。

スポーツ選手の場合、練習ですでに肩や腰背部に大きな負担がかかっているケースが多く、さらにBPでそれらの部位に大きな負荷を継続的にかけ続けると、双方(練習とトレーニング)のダメージが蓄積し、肩や腰背部に痛みが生じることも考えられます。

こういったリスクを回避するために、肩の安全性を最優先させる必要があるスポーツ(野球選手、特にピッチャーなど)や胸の厚みが無く肩に負担のかかりやすい選手に対して、我々はハーフ・ベンチ・プレス(図1)を活用するメソッドを勧めています。図1は、トレーニング専用の枕をクッションとして用いて進めている実例です。

図1

このようなハーフBPを用いることで、肩の可動域が制限され、バーを下した時の肘の位置が下がり過ぎずにトレーニングを行うことができます。BPにより肩の痛みを誘発する原因の1つに、バーを下した時の肘の位置が下がり過ぎて、胸や肩に過大なテンションがかかることがあげられます。十分にトレーニングを重ねた選手ならまだしも、まだ身体ができていない初級レベルの選手が過大な負荷に晒され過ぎると、肩や胸に痛みが生じるケースが出てくるわけです。

また一方で、「可動域を大きく使ってトレーニングを行うのが原則だし、この方法だと効果的ではないのではないか」と指摘する方々もいらっしゃるかもしれません。 確かに、この方法では可動域が出ていませんので、筋肉の発達という観点からすれば、フルBPよりも非効率的になるかもしれません。しかしながら、スポーツ選手が行うトレーニングでは、安全かつ効果的にトレーニングを進めることが最優先されるべきなので、多少時間がかかろうともリスクを回避する進め方が原則となります。

尚、我々がこれまでに行ってきた指導経験上では、ハーフBPの効果は十分に認められています。例えば、ハーフBPを中心に一定期間取り組んだ結果、ハーフBPの拳上重量がアップ(10~20kg)するとともに、フルBPまでもが伸びた(2.5~10kg程度)、こういったケースを数多く見てきました。この間、フルBPによる強化はほとんど行っていなかったのにもかかわらず、フルBPの記録も向上したわけです。

また、より筋肥大を重視したい場合(例えば、ラグビーなどのコンタクト競技)などでは、ハーフBPに加えてプッシュ・アップやダンベル・ベンチ・プレスなど負荷強度の低い補強種目を組み合わせて行うことで、目的とする結果が得られるようにプログラムを組み立てると良いでしょう。

もちろん、最初からフルBPを採用して強化する進め方もあります。また、ハーフBPを主体としながら、トレーニングに慣れ、ある程度の身体強化が図ってから、フルBPを段階的に導入していく流れもあります(図2)。

図2

次に、腰部に対する負担回避について述べておきます。一般的には、ベンチに背中と尻を着けてベンチから腰を浮かさないようにすることが基本フォームとされるかと思います。しかしながら、ここで重要になるのが、腰を浮かすか浮かさないではなく、しっかりと胸を張り、脚を踏ん張るフォームがつくれるかどうかです(図3)。その結果、体幹が自然な弓形となり、全身を使って大きな力が出せるようになります。このフォームで拳上する際に尻が少し浮いても何の問題もありません。むしろ、無理にお尻をベンチに着けようとすると、腰への負担が集中してしまうので、そちらの方が要注意です。 

図3

図4は、ベンチの高さが膝と同じかそれより少し高い場合ですが、このケースで図3のようなフォームをつくろうとすると、今度は逆に腰部に対する負担が大きくなってしまうので避けるべきです。図5のように脚の位置を高くするか、ベンチに両足を乗せて行う方が安全です。少し細かい話にはなりますが、使う器具によっては、腰部の負担を避ける適切なフォームが変わってくるので注意をしてください。

図4 図5

以上、今回は初期段階の重要ポイントの中から①を中心に解説しました。次回は、後編として、②以降の実際の導入の流れを解説していく予定です。

2017年6月29日
文責:大道 泉