JPフィットネス・ストレングス工房
03-3239-8511
JPフィットネス - ストレングス工房 日研ブログ

2017年8月アーカイブ

#5:野球選手のトレーニング Vol.2

| | コメント(0) | トラックバック(0)

 野球選手のトレーニング、第1回目は「投手の上体トレーニング」について、ベンチ・プレスを強化の軸に据えた場合の実践例と考え方などを解説しました。
 今回は、投手の上体トレーニング 第2編として、背面の強化を中心に進めるパターンについて解説します。

■『投手の上体トレーニングの考え方と実践例(2):背面強化編』
 
前回の記事では、「投手にとって、ベンチ・プレスは必要か?」という切り口から、ベンチ・プレスをどのように導入・採用するのか、その基準となる考え方の整理から入り、ベンチ・プレスを行う際の原則を解説しました。
 今回は改めて、投手の上体トレーニングにおけるポイントの整理から入りますが、まずは投球動作そのものの特徴を確認しておきましょう。

pitching phase.JPG

 上の図は、投球動作を各局面(Phase)に分けた模式図です(出典:『肩 その機能と臨床 第4版』信原克哉.医学書院.2012/360頁 図9-17より ※図中の丸はここでは特に関係無し)。
 投球動作は、動作開始からステップ脚の膝が高く上がるところまでのWind up Phase、ステップ脚が完全に接地するまでの間で投球側の腕のテークバックからトップにかけての動作が伴うCocking Phase、ステップ脚が接地したのち投球側の肩関節が最大外旋位(腕がしなった状態)をとり、ボール・リリースに至るまでのAcceleration Phase、そして、ボール・リリース後、腕を振り切って投球動作が完了するまでのFollow-through Phase、以上の4つのPhaseに分けることができます。
 
投球動作は、各々の筋群が適切なタイミングで活動して力を生み出し、エネルギーを伝達し、ボールを加速させる全身運動です。特に下半身が主動となり、軸脚からステップ脚に体重移動させながらエネルギーを生み出し、体幹部を通じて、肩・肘、そして手先へと送られ、リリース時にその速度が最も速くなってボールに力を加えます。一連の動作の中で、固有の筋群だけが働く訳ではなく、その瞬間ごとに必要な筋群がタイミングよく連鎖的に働き、力を出しています。

 
そこで、それらを踏まえた上で、投手の上体トレーニングにおける強化Pointを整理していきましょう。
1)上背部の筋群:広背筋・大円筋・菱形筋・僧帽筋など
 背面には、脊柱の両サイドを走行する脊柱起立筋群という軸となる大筋群がありますが、ここでは上肢の動きに関与する筋群ということで限定的に考えていきます。

lat.JPG

 その中で広背筋が最も重要な役割を担います。上記の写真のように、起始部(筋肉の付着部)が腰背部(腰椎と骨盤)にあり、束のようになって上腕近位部(肩に近い側)の前側に停止(筋肉の付着部)します。つまり、身体の後ろ側から、胴体に沿いながら、捻じれるようにして前側についた状態になっています。
 この構造を頭に入れた上で、次の写真を見てみます。

mer pitch.JPG

 この写真は、Late Cocking PhaseからAcceleration Phaseに切り替わる、肩関節の最大外旋位、つまり腕が最も捻じられた(しなった)瞬間です。この時、広背筋、及び大胸筋はゴムが引き伸ばされたような状態となり、ボール・リリース時には伸ばされたゴムが解き放たれるようにして力を出すことになります。
 また一方、ボール・リリース後は、高速で振り下ろした腕を制御する必要が出てきます。その際にも、上背部の筋群は、その役割を担うことになります。したがって、強く・速く腕を振る為には、それに見合った強靭な上背部の力が必要になってきます。
 強化すべき上背部の筋群は、広背筋の他に、大円筋、菱形筋や僧帽筋などが挙げられます。

2)ローテ―タ―・カフ筋群:棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋
 
いわゆる、肩関節の「インナー・マッスル」と呼ばれる筋群で、肩関節(肩甲上腕関節)を安定化させる役割があります。特に、投球肩障害を防ぐ上で、強化が欠かせない筋群で、並行してトレーニングを行う必要があります。

3)上腕筋群:上腕二頭筋・上腕三頭筋
 
上腕の筋群の強化は見落とされがちですが、特に上腕二頭筋の長頭腱は肩甲骨(関節上結節)についており、ローテ―タ―・カフ筋群と共に、肩関節の安定に関与します。また、肘周りの障害を防ぐ上でも、上腕二頭筋・三頭筋、共に強化しておく必要があります。

4)前腕筋群:屈筋群・円回内筋
 
ボール・リリースの際、最後は指先でボールに力を加えることから、前腕の筋群の強化も欠かせません。また、肘周りの障害予防の観点からも、特に円回内筋などの肘関節内側部の筋群を強化しておくと良いでしょう。

5)柔軟性
 
第1回の記事でも記したように、肩甲骨の可動性を高め、胸椎の伸展可動域、また肩関節の内旋,外旋可動域、前腕部の可動域に至るまで、常に柔らかく、可動性の高い状態を維持することが投手の上体トレーニングを進める上で、重要なPointです。いわば、‟強くて柔らかい”“柔らかくて強い”上体をつくることが、強化のキーワードになります。

 
以上が、投手の上体トレーニングのPointです。このように、投球動作を踏まえて強化するPointを整理すると、前回取り上げたベンチ・プレスなど、上体前面の強化はそれほど重要ではないのでは?という議論になりがちです。それらに関する考え方の整理は、前回の記事で述べてありますので、再度ご確認頂くとして、ここでは、トレーニングの原理・原則の一つである「全面性の原則」に則り、表裏のバランスという観点から、必要であるということは繰り返し述べておきます。

 では、ここから実際のトレーニング例を紹介していきます。今回は、上体背面の強化に絞ったトレーニング・プログラムについてです。個々のエクササイズについては、写真をご参照頂き、またエクササイズの細かい解説はここでは割愛し別の機会に掲載することにします。

program.JPG chap a1.JPG chap a2.JPG chap a3.JPG chap b1.JPG chap b2.JPG

 

 【A】が強化、【B】が調整(柔軟性養成)のプログラム例です。先に述べた通り、強さと柔らかさを両立させることが重要となり【A】【B】の両方を実施すると良いでしょう。
 【A】プログラムに挙げたエクササイズの全てに共通するのは、大きく動かすことを意識することです。なお、その際に、肩周りが力まないようリラックスを心がけながら、必要に応じて反動をうまく使って挙上します。一見、矛盾する表現に聞こえますが、「力を抜きながら力を出す」ことは、投球動作においても大切なことであり、その感覚を体得していくことがトレーニングを行う意義の一つです。
 背面の強化は、下から上に引き上げたり、懸垂やラットプルダウン、アームプルのように引き寄せるようにしたり、また水平に引き付けたりと、様々な動作方向や角度でのエクササイズを織り交ぜると良いでしょう。
 また、アーム・カールのような腕のトレーニングは、単独で座って行うのではなく、写真のように脚の強化(スクワット動作)を絡めながら行うと効率的であり、なおかつ全身強化につなげることができます。
 【B】プログラムにおいては、「しなり」をつくることをテーマとした、反り(胸椎の伸展)系が中心のストレッチ・プログラムの一例です。上体が「しなる」ことは、良いボールを投げる上で必須条件であると同時に、投球障害肩を予防する上でチェック・ポイントの一つになります。

 以上のように、今回は投手の上体トレーニング第2編として、そのPointを整理した上で、背面強化中心のトレーニングを紹介しました。この他に、ローテ―タ―・カフの強化エクササイズや、前腕強化、またストレッチなど、より細かいトレーニングも欠かせません。それらは、次の機会にまた解説します。

2017年8月31日日
文責:鬼頭 祐介

※当サイト内の文章・画像等の内容について、許可なく無断転載、及び複製することは禁止致します。

#4:上体強化:基礎 「ベンチ・プレス導入」2

| | コメント(0) | トラックバック(0)

 スポーツ選手の上体強化:基礎「ベンチ・プレスの導入」について、前回に引き続き解説していきます。
 前回は、基礎段階におけるベンチ・プレスの効果と導入に際しての重要ポイント①(表1)を中心に述べました。今回話題にするのは、②バランスの取れた強化を図る、③肩関節の柔軟性を養成しながら進める、④初級段階にふさわしい重量設定を行う、の三項目についてです。

table1.JPG

 

②バランスの取れた強化を図る
1)上体筋群をバランス良く強化する
 ある特定の部位に偏るのではなく、上体筋群をまんべんなく鍛えることは、トレーニングの原理・原則の一つである「全面性の原則」に依るもので、まだ身体のできていない基礎段階の選手では、特にこのことが当てはまります。
 ベンチ・プレスによるトレーニングでは、大胸筋を中心に上体前面の筋群や上腕伸筋群を強化できますが、これに加え上背部、上腕屈筋群、肩上部などを鍛えるエクササイズをプログラムに組み込むことが望まれます(表2 初期プログラムの一例)。

table2.JPG
2)インナーマッスルとアウターマッスルの強化
 肩関節の深層筋群、いわゆるインナーマッスルと表層筋群・アウターマッスルをバランス良く強化していくこと。
 肩関節は自由度の大きな関節であり、様々な動きのエクササイズにより、表層から深層の筋群にいたるまで丹念に強化していくことで、ケガをしにくい丈夫な肩づくりにつながります。
 ボールを投げる、ラケットを振るなど、腕・肩を大きく動かすスポーツにとって、インナーマッスルの強化は、とりわけ重要な課題だと言えます。また、ラグビーなどのコンタクト競技においても、タックル時に肩の固定力を増すなど、表層大筋群の存在に隠れがちですが、機能的には重要な役割を担っています。
 一般的には、ベンチ・プレスでは、アウターマッスルの方が優位に強化されると言われています。インナーマッスル強化のためには、上腕を回旋(内外旋)させる、脇を締める等のインナーマッスルを刺激するエクササイズ(写真①②③)を合わせて行う必要があります。

chap1.JPG chap2.JPG chap3.JPG

3)肩甲骨を滑らかに動かす、周囲の筋群をほぐす
 肩関節の動きには、肩甲骨の動きが密接に関与してきます。肩甲骨が滑らかに動けば、肩の可動範囲も大きくなります。反対に肩甲骨の動きが小さくなると、肩の可動範囲が狭くなります。先にあげたような、肩を大きく動かさなければならないスポーツとっては、肩の動きが制限されることがマイナスとなるのは、容易に想像できることかと思います。
 ベンチ・プレスの基本フォームにおいては、胸を張り、肩甲骨を寄せた姿勢(内転)を保つことが求められます(写真④)。これは、大胸筋をうまく使えるようにすること、そして肩を安定させ力を発揮させやすいポジションに固定することが必要となるからです。

chap4.JPG

chap5.JPG

 したがって、ベンチ・プレスを行っている間じゅう、肩甲骨が内転状態で固定されることとなり、上体前面ばかりではなく、肩甲骨まわりの背中の筋肉も疲労してきます。トレーニング終了後、このまま何の対処もせずに放っておくと、蓄積疲労により肩甲骨まわりの筋肉が凝り固まってしまうことにもなりかねません。つまり、肩甲骨の動きが制限されるケースも出てくるわけです。それを防ぐためにも、周囲の筋肉をほぐし、肩甲骨の動きを引き出す調整エクササイズやストレッチ(写真⑤⑥⑦)が重要視されるのです。
 また、初期プログラム(表2)の強化種目として取り入れられている、④ベンチ・プル、⑤バック・プレスなども、肩甲骨の動きを良くする種目として有効となります。軽い重量で動作を大きく正確に行うことがポイントです。

chap6.JPG

chap7.JPG

③肩関節の柔軟性を養成しながら進める
 ここで言う肩関節の柔軟性とは、肩を含めた上体全体の柔軟性を指しています。胸を開く、上体を反る、丸める、捻る、腕を上げる、回す等の動作に関連してくる筋肉の柔軟性向上と関節可動域の改善を図るトレーニングを同時に行っていきます。強さと柔らかさを兼ね備えた身体をつくることこそが、スポーツ選手のトレーンニングで求められるからです。
 具体的には、上体各部位のストレッチ(写真⑧⑨⑩)をはじめ、ダンベル・プル・オーバー(写真⑪)やダンベル・サーキュレーション・フライなど軽い重量で十分にストレッチを効かせながら行うエクササイズも効果的な手段となります。

chap8.JPG

chap9.JPG chap10.JPG chap11.JPG

④初級段階にふさわしい重量設定を行う
 ベンチ・プレスに初めて取り組む際のトレーニング重量についてですが、重すぎる重量でも軽すぎる重量でも効果的ではありません。ベンチ・プレスの導入段階では、基本フォームと基礎技術の習得が第一に優先され、適正重量でトレーニングを行っていくことが求められます。フォームが固まっていないこの段階で、無理をして重量を上げて進めてしまうと、肩や胸のケガを引き起こしかねません。ましてや、第1回目のトレーニングからMax重量に挑戦するなどは避けるべきです。また一方で、フォーム習得の観点から、重量が軽いからと言って、安全かつ有効とも限りません。安全に正しいフォームを身に付ける為には、重すぎず軽すぎず、適度な重量で行うことがポイントになります。
 具体的には、1セットあたりの反復回数を6~10回程度として、できるだけ潰れないように進めていきます。重量設定の方法とトレーニングの進め方については、次の機会に詳細を述べていきたいと思います。

まとめ
 以上、基礎段階でのベンチ・プレスの導入に関して重要ポイントを見てきました。スポーツ選手のトレーニングの場合、ベンチ・プレス自体のフォームや進め方の習得とともに、バランスの取れた強化や柔軟性を向上させる取り組みが大切になってきます。そういった上体の総合強化が、ベンチ・プレスを伸ばすことになるとともに、より良い状態で専門競技に臨めるようになるからです。
 柔軟性向上や肩甲骨の動きなど、効果が見えづらく、見落とされがちなトレーニングですが、基礎段階からそれらへの取り組みを習慣化し、地道に強化を積み重ねていけば、後々に大きな差となって表れてきます。上体、特に肩関節周囲の柔軟性に着目し、その動きを滑らかにしておくことは、力強く柔らかい競技での動作習得を促し、パフォーマンス向上にプラスの影響を与える決定的要因の一つになるとも考えられます。

2017年8月31日
文責:大道 泉


※当サイト内の文章・画像等の内容について、許可なく無断転載、及び複製することは禁止致します。